悔しくない、といえば嘘になる。
 応援してくれたファンの皆にはごめん、と思うし、
 追いかけて来いといってくれた天ヶ瀬冬馬に申し訳なかった。
 もう一度彼と同じステージに立ちたかった、あのキラキラのステージに立って歌いたかった、踊りたかった。
 でも―――仲間が選ばれた事が嬉しかったのも本当だった。


「おめでとう、シキ、ナツキ、ジュン!!」  


 隼人は仲間が好きだから。
 自分が立てないのと同じくらい、あのステージに3人が踊って、歌っているところを見たかった。
 隼人の言葉に感動したのか、四季は抱きついて隼人の胸に顔を押し付ける。
「本当に嬉しいっす!」
「あはは、良かったな」
「ハヤトっち〜!!」
 頭を撫でると子猫のように微笑む四季を可愛いなと思いながら隼人は笑みを深める。
「うん」
 そんな四季を見て、夏来も表情を綻ばせる。
「ジュンと約束果たせた」
「は、恥ずかしいからそういうこと言うな!って言ってるだろ!!」
「でも、ジュン…」
「ああ、もうっ!」
 なんでかはしらないけれど、総選挙で連続で選ばれた四季、夏来は今回で特別ステージにでられなくて。
 最後のチャンスだったのだろうだからこそ旬と出られると夏来はほんとうに嬉しそうだった。
 こればかりは二人が頑張ったところでファンの投票だからどうすることもできない。だからこそ、本当に良かったと思う。
 夏来はきっと誰よりも旬と一緒に出たかったのだから。
 そして、旬も口にはしないが同じくらい夏来と同じステージに立ちたかったのだと隼人は理解していた。
 だから、夏来の最後のチャンスが旬と一緒でよかったと思う。



 そして、自分も―――



「それじゃあ、三人はこれから別室に行くから、二人は…」
 プロデューサーは気遣うような表情をして隼人と春名に声をかける。
「はい、先に帰ります」
「あ…」
「うん、お疲れ様」
「隼人、行こう」
「うん、三人とも頑張ってね」
 そう言って、隼人は春名に手を引かれてゆっくりと部屋を出る。
 小さな事務所である315プロから外へと出るとすでに空は黒く染まり、キラキラと星が輝いていた。
 吐く息は白く、少し肌寒かった。  



「惜しかったな、ハヤト」
 隼人は握っている春名の手が温かいなと思っているだけだったが、ぽつりと呟かれた春名の言葉にそちらに顔を向けた。
 その言葉が総選挙の結果を言っているのだとすぐにわかった。
「ハルナもだろ」
「……」
「8位だったしの、1つあがったしじゃん!」
「……うん」
「オレなんて、5つも落ちたんだから、春名のほうがすごいって思うよ」
「……どうかなぁ」
 あのキラキラのステージにまた立ちたかった。
 自分を応援してくれるファンの皆に少しでもお礼したくて頑張りたかったけれど、結果は惜しくも6位だった。
「中間までは5位に全員入ってたから5人でいけるんじゃないかなだなんて言ってたけどさすがに無理だったな」
 あはは、と乾いた声が夜の人通りのない道に響き渡る。
 元気なさそうなそんな春名を慰めたかったけれど、どうしても出来なくて。
「……」
 いつもなら旬が叱ってくれる、夏来が勇気付けてくれる、四季が元気をくれる。
 皆を気遣ってくれる春名が辛い時は皆がいつも手を伸ばしていた。
 いつだって、自分は何も出来ない。
 皆だったら、だなんて思うけれど無駄だ。
 だって、自分は秋山隼人だから。
 他の誰にもなれない。
 今ここにいるのは秋山隼人だけ。
「……ハルナ」
「……え」
 だから、自分に出来ることを、
 自分にしか出来ないことと思って、いつもなら恥ずかしくて出来ないけれど、必死で背伸びをして彼の頬に触れた。
「……」
「……っ…」
 自分の唇に触れた柔らかな頬は冷たくて、自分がぬくもりを分けられたらだなんて思うけれどそんなのは無理だって知ってる。
 それでも、少しでも元気になってほしいと思っていると、
「……は、ハヤト、今―――」
「元気、出た?」
「……うん」
 そう言って、はぁとため息を吐いて、春名は今度は笑顔で隼人に微笑んだ。
「敵わないなぁ」
「何が?」
「……いや、その」
「?」
 なんだろうかと思って首を傾げるけれど、春名は何かごまかすように目を泳がせる。けれど、すぐに微笑んだ。
「シキもナツキも、ジュンにも先に行かれちゃったなと思って」
「……」
「それに、ハヤトも前行ったんだよなって」
「……はる―――」
「ハヤトは、もう一度あそこに立ちたかったんだよな」
「そう、だね」
 目を閉じれば今でも思い出せる。
 冬馬さんや山下先生と一緒に踊ったあのステージ、どこまでも響き渡る声。
 自分が自分じゃなくなるようなあの感覚。
 High×Jokerの、バンドだけでは味わえない不思議な、煌びやかなあの時間。
 あれが魔法というのなら間違えなくそうだ。
 誰だってあのステージに憧れる。315プロにいる誰もが。
「……オレだけが、体験できないんだって、そう思ったらなんだか悔しくって」
「……」
 ははと笑う春名の横顔を見て、「そんなことないよ」と微笑んだ。
「え?」
「冬馬さんが言ってた。自分達は仲間だけど、ライバルだから悔しいとか負けたくないってのは当たり前なんだって」
「……」
「だから、変じゃない」
「ハヤト」
「……来年」
「……」
「立とうよ、一緒に」
「……」
「オレ、悔しかったけど、殿堂入りって聞いてちょっとだけ良かったって思ったんだ」
「へ?」
「だって、ハルナと立ちたかったから」
「え…」
「ナツキとジュンがお互いステージに立ちたかったように、オレもハルナと一番、一緒にあの時間を味わいたかったから今回はいいかなって」
 仕方ないから今回は三人に譲るよ、と笑って冗談を言う。
 その言葉にハルナは目を丸くして、でもすぐにいうも日溜まりのような笑顔を見せてくれて髪の毛にそっと触れてくれた。
「一丁前に言うなぁ、ハヤト!」
「い、いいじゃないか、次はハルナだって選ばれるつもりなんだろ?」
「当たり前だろ!それで観客席から見てるシキとナツキが羨ましがるくらいいいステージにしてやろうぜ!」
「……うん」
 そう言って、目と目があった。
 それだけでお互い何を言うまでもなく、唇と唇が触れる。
「……」
 約束、と指きりではなく、接吻を交わして、それから離れるとお互い顔を見合わせてまた微笑んだ。
「3人が特訓してる間、オレ達も特訓しないとな!」
「よし、じゃあ今日は二人で残念パーティでもすっかー」
 ドーナッツたっぷり買って帰るかーというハルナに「ジャムパンも!」と言って手を繋ぐ。



 今回は二人でサイリウムをただ振って応援することしか出来ないけれど、必ず今度は二人でホリゾントライトをめいいっぱい浴びてキラキラと星空のように輝くステージに立って見せるから。
 だから、今は、ちょっとずつ二人で歩いていこう。

 ケミカルライトの波に乗りながら。