春名と一緒にいると幸せで嬉しくて、ずっとそばにいられたらどんなにいいだろうと思っていた。
 でも、春名は違う気持ちだったんじゃないかと思う。
 男同士だという事を気にしないと云えばウソになる。否、ずっと気にしている。
 世間に、家族に、友達に受け入れられるわけがない、それでも一緒にいたいという我儘をずっと自分は重ねてる。
 それでも春名がいてくれたら、と思っていた。
 けれど―――
「ハルナ、あの…」
「うん?」
「きょ、今日、ハルナの家に行ってもいい……?」
 恥ずかしさを押し殺して、春名と一緒にいたくて少しだけ大胆になって言った言葉。
 この言葉を言わなければ良かったと後から思う。
 だって、この言葉を言わなければまだ自分は夢を見ていられたから。春名に自分は好かれてるんだと思っていられたから。
 でも、
「……え、あ……ごめん」
「ハルナ?」
「今日はちょっと、無理なんだ」
 そんなの全部自惚れだと気づかされた。
 いつでも春名の部屋に招きいれられて、甘い言葉で囁かれて抱きしめられて夜を過ごせると信じていた。でも、そんなのは全部砂の城でしかなかった。
 本当はもうとっくに春名は自分に飽きていて、別れたがってるのかもしれない。でも、優しいから言いだせずにいるのかもしれない、など隼人は思ってしまう。
「そ、そっか」
「ごめんな、ハヤト」
「ううん、仕方ないよ」
 うまくそう言った自分は笑えてるだろうか。
「それじゃあ、また明日な」
 そう言って、バイトへと向かう春名の背中を見送った。
 隼人は春名の背中が見えなくなると早足で自分の家へと向かう。
 そして、泣きそうになる自分を叱咤して隼人は一人、ベッドで寂しさを誤魔化すようにギターを弾き続けていた。
 春名と一緒にいられないのは寂しい。
 それに―――
「……」
 隼人が春名に抱かれたのはいつだっただろうか。
 春名に会うまでセックスのセの字もしらないような生活をしていた隼人はすでに春名に至るところが開発されて、定期的に抱かれないと満足できない体になっていた。
 自分自身は自覚がなかったが。
「……俺、えっちになっちゃったのかな……」
 もじもじと太腿を悩ましげに擦りつけながら、こんなんだから春名から嫌われてしまうんだろうかと思ってしまう。
 高ぶる体を納める為に自慰でもすればいいのだろうが、恋人がいるのにそういう事をするのはなんだかよくないと清廉な隼人は思えて結局体の熱を持て余していた。


「……ハルナ」


 笑ってくれる春名の笑顔を思い浮かべながら隼人はどうしてこうなっちゃったんだろうと泣きたくなる。もしかしたら、そのうち別れ話をする事になるかもしれない。でもお互いよそよそしいよりはいいのかもしれない。でも……そんな気持ちを抱きながら隼人は泣きそうになる自分の膝を抱えてそっとベッドで春名の事を思った。




 一方春名はバイトから帰って暑苦しい自分の部屋へと戻ってきた。
「ただいま〜」
 母親は夜勤の為いないのだが、それでも癖で言ってしまう。
 以前ならば、バイトがあろうがなかろうが、母親がいない日は隼人が来て濃厚な恋人としての時間を楽しんだものだ。
 しかし、今はそんな時間を過ごすわけにはいかない。
 何故なら―――
「……ハヤトを熱中症にさせるわけにいかないよな……」



 若里家には元々クーラーなんて気の利いたものは一切ない。
 となると、古い扇風機を全開にして使うしかなかったのだが、たった一台しかないその扇風機が少し前に壊れてしまった。
 春名はそれでもなんとか生きていけるが可愛い恋人に汗だくで過ごさせるわけにはいかない。ましてや最近は30度を越える熱帯夜だ。隼人がいたら……勿論キスしたくなるし、手を出したくなるし、純粋な隼人を自分好みにドロドロにしたくなる。
 変態かと旬や四季にバレたら最後言われそうだが、男であれば可愛い恋人を自分好みにしたくなるのは当たり前だし、自分だって相手の好きな姿に近づきたいと思うのは当たり前だ。
 一緒に過ごしたい、と可愛く誘ってくる隼人に断りを入れるのは辛い。
 本音を言えば今すぐ連れ込んで、そのまま自分だけを見て貰って甘やかして、ドロドロに溶けるほど厭らしい事をしたい。
 何もしらない純粋だった隼人が春名に股を開いて小さな尻穴が縦に割れるほどに一緒の夜を過ごしたというのに何度抱いても足りないくらいに隼人は魅力的だった。
 こういうと体目当てに付き合ってるように聞こえるが、春名だって別に隼人を好きになるまでは男に興味なんてなかったし今でも興味がない。ゲイではないとはさすがに否定できないがせめてバイセクシャルであるくらいには思いたい…。まぁ、すでに隼人以外には興奮しないわけだが。
 隼人と出会って、あのキラキラとした眩しい眸に魅せられ、自分の手をいつの間にか握って引っ張ってくれるあの小さな背中に焦がれた。
 隼人といるとろくでもない自分が少しだけ真っ当に思えて、そんな自分を格好良いとイケメンだと言い続けてくれるからそうでありたいと自分を変えようと努力した。隼人が笑ってくれると嬉しくて、仲間以外の誰かと一緒にいると胸が苦しくなって自分達だけのリーダーでいてほしいのか、と自分で自分の事を子供みたいだと思ったけれど、いつのまにか隼人の唇をじっと見て自分の唇を重ねたいとか、あの細い腰を抱いて涙でぐちゃぐちゃしたいとか考えている自分に気づいたらもう言い逃れは出来なかった。
 それでも仲間として一緒にいられるなら、と自分で自分を誤魔化し続けたが結局隼人を好きだという気持ちは抑えきれなくて、いろいろあってこうしてお付き合いする事になったのだが。  


 春名は隼人以上に魅力的な人を知らないし、多分これからも知らない。
 意外かもしれないが、隼人とこういう関係になるまでは童貞だったし、ましてや男同士のやり方なんて知らないからどうしたらいいだろうかと思ったら事務所の皆が知っていて、いろいろアドバイスをくれた事を思い出す。
 あの時も今もなんで知ってたんだろう?と首を傾げるが深い事は考えてはいけないと春名は自分の記憶に蓋をした。まぁ、そんな訳で初体験までは色々問題があって一回じゃ無理だったり、恐くないよう入れないで抜きあいっこしたり、素股で致したりとしたけれど、努力の甲斐あって結ばれてからは一週間に最低でも2、3回はするようになっていたし、隼人も口にしないけれども性行為するのは好きらしく恥ずかしそうにする隼人が最後には乱れる姿が溜らなくて、愛しいやら、気持ちいいのやら、心と体から色んなものが噴き出しそうになって何度しても幸せだなぁと思うし、隼人の事をするたびに好きになるからしょうがない。
 まぁ、普通に過ごしているだけでも昨日よりも今日、きっと今日よりも明日、一分前の自分よりも今、今の自分よりも一分後の自分の方が隼人の事を好きになってるんだから自分でもどうしようもないと思う。
 惚れた方が結局負けというのはそういうことなのだろう。
 まぁ、そんな訳で隼人と普通に過ごしているだけでも幸せなのだが、勿論自分は若いしこれまで一週間に2、3回はしていたのだから急に性欲を抑えなければならない日々は正直辛い。


 隼人とセックスしたい。


 そうは思うが、ホテルを行くのはアイドルの身の上で危険すぎるし、まさか学校でヤるわけにはいかない。学校で隠れてスルというのはある意味AVや雑誌なんかではよくあるパターンだし、春名とて正直興味がないといえばウソになるが、あくまで隼人と一緒に楽しむのが大事なわけであって、隼人が恐がったり辛いと思うシチュエーションをやりたいわけじゃない。
 男として、勿論恋人に無理やりそういう行為とか、玩具を使ったプレイをしたくないと言えば嘘になるが。
「……ハヤト、頼んだらしてくれないかなぁ……」
 自分でそこまで考えて、余りの隼人不足で厭らしい想像をしてしまった。
 ピンクのローターをつけて、隼人に自分の選んだ服を着せてデートに連れていく…とまで考えたが絶対にそんな隼人可愛いし、自分以外に見られるのも嫌なので却下することにする。
 いつか車の免許を取って、車を自分で買えるくらいに稼げるようになった時に頼んでして貰うならまぁ別だが……。
 だが頼んだら『何言ってるんだよ馬鹿!』と泣きそうな顔して上目遣いで怒られるだろうかと思いつつも隼人は優しいから『は、ハルナがしたいならいいよ…』と恥ずかしそうにいってくれるかもしれない。
「……うぅ、ハヤトとえっちしたい……」
 扇風機すらない部屋で汗だくになりながら春名は頭にもはや湯気でも出ているのかというほど煮だったどうしようもない妄想ばかり広げて頭の中で恋人を思う存分辱めていた。
 そしてその度に冷静になって「ハヤトごめん」と思う。
 いっそヌけばいいのだろうが、何が悲しくて恋人がいるのに一人でしなければならないのか。そう考え春名もまた熱のこもった体を持て余していた。


「……ハヤトの家族がいない日があったらなぁ……」


 そしたら隼人の家にいって―――と思って、隼人の家を穢すわけには…と悩んだりしながら春名の夜は更けていった。







「……」
 部屋でぼーっとしていると鏡に自分の姿が映る。
 その顔ははどうしようもなく不細工で隼人は無理やり笑顔を浮かべようとするけれども、どうにも上手くいかない。
 はぁ、と溜息を吐けば
 もともと綺麗な顔ではないけれど、それでもどうしようもない表情で仕方なかった。
「……ハルナ」
 それでも思う人はただ一人。
 春名に嫌われたくない。
 ずっと一緒にいたい。
 あの笑顔を自分に見せてほしい。
 苦しい時は力になりたい。
 でも、
 それでも、
 春名にとって自分がいらないのなら―――
 そう思っていると、隼人のスマフォから先日発売した春名のソロ曲が流れる。
 その音に設定してる人はただ一人。
 隼人はすぐ様電話に出て返事をした。
「は、はるな!」
『…どうしたんだよ、そんな慌てて』
「え、な、なんでもないよ?そ、それよりハルナ、どうしたの」
『疲れたからハヤトの声聞きたくなってさ』
「……っ」
 やめてほしい。
 そんな期待するようなこと言うのは。
 相手も好きだと言ってくれて、それで自分の苦しさは終わるのかと思ったら、恋愛の辛さというのはいつまでも続く。
 苦しくてどうしようもなく悲しくて、これを切ないという気持ちなのだと春名にあって初めて知った。
 でも、それでも春名の手を離せない。
 好きで好きでどうしようもなく好きで、大好きだから一緒にいたい。
 春名の傍にいたい。
 その上で好きでいてほしいだなんてなんて我儘なんだろう。
『ハヤト?』
「……え」
『泣いてるの?』
「あ……」
 そう言われて涙が溢れ出てるのが解った。
 よく泣くと言われているけれど、それでも辛かったり悲しくて泣くのはしないでおこうとなるべく思ってるのに。
 なのに、涙腺が壊れたかのように涙が流れ続けて仕方ない。
「ち、ちが……」
『ハヤト、どうしたの。どうして泣いてるの』
「ちが……違うよ、ハルナ」
『オレ、何かした?ハヤトの事悲しませてた?』
 優しく「言って」といわれて隼人は更に涙が溢れ出た。
 どうしてこんなに春名は優しいんだろう。どうして格好良くていつも大人でそれが自然体で……春名の重荷になりたくないのに、なのに。
「……ハルナ、ごめん」
『ハヤト?』
「好きになって、ごめん』
「え……」
 そう言うと、隼人は涙を流した。
 春名がぷつりとスマフォを切る音がした。
「……」
 嫌われた、と思った。
 ああ、どうしよう。
 ああ、だめだ、どうして、こんな、ぐちゃぐちゃに歪んだ顔のまま隼人は指が震えた。  



「大丈夫」



 大丈夫なんかじゃない。
 大丈夫じゃない。
 でも、大丈夫って思わなきゃ―――
 そう思いながら笑おうとしたときだった。
「……」
 今度はLINEの着信音がした。
 なんだろうかと思ってると「窓の外を見て!」と春名から来る。
「……っ」
 まさか、そんな、と思ってると、汗を流して隼人の部屋を見つめる春名がカーテンをずらすと見えた。
 どうして、そんな、
 隼人は先ほどとは違う理由で涙が流れそうになりながら、母親が何か言うのも聞かずに外へと出た。
「ハヤト!」
 そう言って叫ぶ春名の顔を見て、
「ハルナっ」
 隼人はまた一つ涙を流した。
「…ハヤト、どうかした?」
「ハルナ…」
 自分でも女々しいと思う、でもつい聞かずにいれなかった。
「俺の事、もう嫌になった…?」
「…………は?」
 その言葉に春名は心底意味が解らなくて目を丸くした。
「ちょっと待って、ハヤト」
「……」
「と、とりあえず、ここから離れよう」
「……」
 こくりと頷いた隼人を連れて、春名は近くの公園へに連れていく。
 昼間は子供達が遊んでいるであろう遊具達が見えるベンチに腰をおろして春名は隼人の顔を覗き込んだ。
「ハヤト」
「……」
「オレ、何かした?」
「……ハルナは、何も悪くない」
「なら、どうしてあんなこと言ったの」
「……」
「ハヤト」
 優しく諭すその声に隼人はゆっくりと声を開く。
「……ハルナが」
「うん」
「その、最近……」
「うん」
「……」  そう言うと、顔を隼人はぼんと火が出るくらい真っ赤にしてそれから恥ずかしそうに声を震わせた。
「え…」
「え?」
 何だろうと春名は隼人の言葉を待つ。
「え、え…っち、してくれない…から……」
 すると春名の耳に信じられないような言葉が入ってきた。
「……」
 その言葉に春名の頭の中では次々にドーナツが運ばれてきて、その上に自分がまるで寝ながら食べているような楽園にいる気分になった。
「う、うぅ…」
「ハヤト」
「ご、ごめ―――」
「……」
 隼人の瞳に輝く星が見えた。何度見てもキラキラと永遠を切り取ったかのようなその瞳に焦がれた。
 何度も何度も隼人の背中を見て、その手を握って走る事を決めた今がどれだけ眩しくて自分が遠ざけていた「青春」なのかきっと隼人には解らないだろう。
 隼人がいると世界が綺麗に見える。
 息をしているだけのただ、何も考えずに生きていた自分じゃなく、隼人の隣にいるからこそ「若里春名」なんだと今では言える。
 なのに、そんな愛しくて眩しくて、欲しくても手に入らないと思っていた存在をどうして捨てる事が出来るだろうか。
 何度触れてもキスに不慣れなその唇から自分の唇を離して、
「好きだよ」
 というと隼人は一瞬何が起こったのか解らなかったのか、でもすぐに驚いて照れたように自分の唇を抑える。
「は、ハルナ!」
「あはは、ハヤト可愛い」 「ご、誤魔化されないからな!ジュンがこういうのは「男は都合が悪くなったら誤魔化すんです」って言ってた!」
「……なんで、ジュンがそんなこと知ってるんだよ……」
「えーっと……何でだろう?」
 そういえばそうだな、と隼人は今更気づいたのか疑問に思いつつも「で、でも、ハルナ!」とちょっとだけ頬を膨らませて言う。
 その様子が可愛くてもう少し見ていたいなと思うが春名ははっきりと答えた。
「ハヤト」
「?」
「うちに来て」
「え」
「そしたら解るから」
 どういう事だろう、と隼人は思いながらも春名の言うとおり頷いた。
「ごめんな、ちゃんと言えばよかった」
「ちゃんとって?」
「ハヤトを家に入れられない理由」
「っ」
 そう言うと隼人は少しだけ顔を顰めた。しかし事実だ。
 春名とセックスする、という事は春名の家に入ること。
 そしてそれが出来ないからこそ二人は体を繋ぐことが出来ない。
 遠いとも近いとも言えない距離の春名の家の前へに行くと隼人は家族に連絡してから、春名の家へと入る。
 そして扉を開くと同時に―――
「……うっ…」



 とんでもない熱気が隼人の体に纏う。
 異常なまでの、砂漠の熱さとはこういうものなんじゃないかと思うような、そんな熱さ。
「は、ハルナ…?」
「うちにエアコンないの知ってるだろ?」
「…知ってるけど…でも……」
「扇風機も壊れちまってさ」
「……え」
「それでこんな熱さなんだよなぁ」
「……」
 驚いて隼人はぼーっとしていたが、それから気づいたかのように春名の顔を見た。
「それで、もしかして」
「うん、ハヤトの体悪くしたら困るし……」
「……」
 その言葉に隼人は安心した。
「そっか……」
 よかったと肩を撫で下ろす姿を春名は見て「可愛いなぁ」と思って、正直ムラっとするものがあったがこんなとんでもない暑さの部屋に隼人を放りこむわけにもいかないので隼人の家に連れて帰ろうと想ったが、
「……で、でも、ハルナ」
「うん?」
「俺、大丈夫だよ!」
「え?」
「は、ハルナは毎日暑い中寝てるんだろ?」
「それはそうだけど……でも、」
 ハヤトはそうじゃないだろと言おうとしたら、隼人はおずおずと服の裾をつかんで、
「……母さんに、『ハルナの家に泊まる』って送っちゃったし、今帰ったら逆に心配されるよ…」
「……」
「ハルナ」
 ダメ?と訴えるかのように隼人の瞳が春名の目をじっと見た。
「ハルナと、したい」
 恥ずかしそうにそう言う恋人。
 その瞳を隼人の為だと言い聞かせて何度も振り切った。
 けれど、もう
「……倒れても知らないからな」
「うん」
「水はちゃんと飲めよ」
「…っ、うん!」
 そこまでされたら、もう後には引けない。
 春名は隼人の手を握って、そっと自分の家の扉を閉めて鍵を急いで閉める。
 靴を脱ぐと思いきり手を引っ張られて、春名の部屋に連れてこられるとそのまま服を剥かれてベッドに押し倒される。
 春名も脱ぐ時間がもったいないと言いたげにそこらへんに服を脱ぎ棄ててそのまま隼人に圧し掛かった。
「ハヤト?」
「え?」
「どうかしたのか?」
「……え?」
「笑ってるから」
「……だって」
「だって?」
「ハルナと一緒にいるから」
「……」
「ハルナ?」
「否、大丈夫…」
 いきなり隼人を抱きしめた春名を見て隼人は心配そうに顔を覗き込んだ。
 隼人が可愛すぎるから、というどうしようもない理由だったんだが。
「……ハルナの匂い、いいにおいがする…」
「っ〜〜!!」
 隼人のファンが「秋山隼人マジ天使」という理由がよく解る。
 隼人のお父さん、お母さん、隼人を産んでくれてありがとうと心から言いたくなる。
「……ハヤト」
「どうしたのハルナ」
「ハヤトの両親にお礼言っておいて」
「え?なんで??」
「どうしても」
 いきなりそう言われて隼人はよく解らなかったが春名に額を合わせられてじっと美しい翡翠の瞳で言われたら頷くほかなかった。
 ぽとりと春名の汗が隼人の額に落ちた。
 まずい、と思ったが隼人は笑ってそっと春名の額に手をのばして汗を拭ってくれる。
 とはいえこの暑い部屋では隼人の手も同じように暑かったが。
 暑くて気持ち悪い筈なのにもっと近づきたくて、春名は久しぶりに隼人の項に顔をうずめた。
 自分の体の匂いがドーナツのようだと言われた事はあるが、それを言うなら隼人の体はジャムパンのような甘ったるさがする。
 太陽と、ジャムパンの温かくて甘い、隼人特有のにおい。
「ぁ…」
 匂いがいくら良くても味なんてしなければ美味しいと思わないはずなのに、隼人の体に舌を這わせれば酷く甘く感じた。
 もっと味わいたくて、久しぶりにむさぼりたくて春名は思うがままに隼人の体に舌を滑らせる。
「んっ……ぁ…うぅ…」
「ハヤト、気持ちいい?」
「ん、きもちい…」
 熱に浮かされてとろけた瞳でそう言って、その言葉を証明するように舌でつつくと乳首がぷっくりと膨らんで先端がぴんと勃ち上がっているように感じられた。
「……はるな」
「うん?」
「し、した……」
 もっと隼人の声が聞きたくて、隼人の左胸を舐めながら、右胸を摘んでいると切なそうな声を出すから、「そっちばっかりいや」とか可愛い事言うのかなと思って顔をあげたら、
「下?」
「…さ、さわって……」
 なんか、もっと可愛い事を隼人が言い始めた。
「ああ、ごめんな」
 そういって、春名がそっと隼人の肉棒に触ろうとすると恥ずかしそうに小さな声で「そっちじゃなくて…」といった。
「え?」
「う、うしろ…」
 もごもごと口ごもるような声で隼人がそう言った。
 一瞬、春名は何を言われたのか解らなくて動きを止めた。
 隼人は恥ずかしそうに「ハルナに引かれた!」と思って、「うぅ〜」とすぐ傍に春名の枕に顔を埋める。
「……ハヤト」
「っ」
「ハーヤートー」
「……」
「ここ、触ってほしいの?」
 そっと肛門部に触れるとそれだけで隼人の体が跳ねた。
「はる……」
「いや?」
「……ハルナ、いじわるだ」
 むぅと頬を膨らませて春名を睨むが、ただ可愛いだけでしかない。
「だってハヤト可愛いから」
「……」
「で、ハヤト」
「っ……んぅ…」
「触るだけでいいの?」
「あぁ…」
 隼人の尻の皺をひとつひとつ丁寧になぞるとそれだけで隼人が歓喜の声を漏らした。
「い、いれて…」
「こう?」
 ローションを手に付けてそっと隼人の腸内に指を入れた。
 春名の長い指先がバラバラに動かすと隼人が「ち、ちが…」と否定の声をあげた。
 隼人の体は知ってる。
 それ以上に自分の体を貫いて気持ち良くしてくれるものがある事を。
 意地悪だ、と思うけれども、春名がちゃんと言わないとしてくれない事も知っているからそっと震える手で目的のものに触れた。
「は、はるなの……」
「うん」
 自分のモノよりもずっと立派で勃ち上がっている肉棒にそっと触れて、か細く震える声で口にする。


「はるなの、おれのなかにいれて」



 下手すると聞こえないような小さなその声。
 けれど春名はしっかりと拾って、隼人の中を弄る指を抜いた。
「……ハヤト」
 春名が隼人の脚を自分の肩にのせて自分の肉棒を隼人の肛門に押し当てる。
 その感触に一瞬驚くものの、それでもその先にこれ以上ない快楽がある事を隼人の体は覚えていた。
 ゆっくりと挿入されると、春名の汗が隼人の体に飛び散った。
 隼人の体からも汗が流れおち、春名のベッドのシーツは汗だらけでもはや機能を果たしていない。
 頭が真っ白になり、体を揺さぶられながら、隼人はそっと春名の汗を拭わなきゃと何かを掴んで春名の額に手を伸ばした。
 けれど、誤解されたのか、そのまま隼人の腕は掴まれて春名にキスされた。
 舌をからめられて、春名の唾液が隼人の口内に入ってくる。それをそのまま飲み込めば今度は息を奪われるように何度も何度も同じようにされた。
 鼻で息をすればいいといわれてもやり方なんて解らない。
 暑さでもう何も考えられずに、ただ隼人は春名に触られるところ全部が気持ちいいとしか考えられなかった。
 もう、汗もどちらのものなのか解らない。



 ぽとりとまた一つ汗がこぼれた。





実際、クーラーのない部屋でこういう行為したら熱中症で倒れると思うのですがフォロワーさんの呟かれた内容がとても素敵だったので書かせて頂きました。